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八ヶ岳の尊い自然を守り、
この美しい自然の中に身を置く豊かな時間を
次世代につなぐ

〜白駒池周辺・登山道整備事業〜

豊かな自然の宝庫である美しい八ヶ岳の山懐に入り、
大いなる自然の中に身を置く時間を楽しむために
訪れる人々は後を絶ちません。
しかしながら、その舞台裏で貴重な動植物を育む環境を守り、
また安全な登山のために登山道を整備し続けている
山小屋関係者たちがいることは、あまり知られていないのが現状です。
八ヶ岳観光協会では、この美しい八ヶ岳を
次世代にしっかりと残していくために、
登山道整備をはじめとするさまざまな取り組みを行っています。
その中から今回は、北八ヶ岳白駒池周辺で行われた
登山道整備事業について紹介します。

北八ヶ岳で実施した登山道整備に参加いただいたボランティア企業の皆さまと、協会関係者

長い時間の積み重ねによって
形成された自然。
ここには残していくべき
素晴らしい価値がある。

「30年前の白駒池周辺は岩だらけの土地で、木道ができるまで池一周は歩けなかったんですよ。このあたりは国定公園なので倒木でも勝手に切ることはできないため、私は営林署のOBの方に力を貸してもらって木道の整備を始めたんです。当初は丸太を番線で縛って木道を作っていましたが、丸太は歩きにくいので板を敷く形に変更していきました。このような活動を続ける中で当時私は行政に板などの材料や作業にあたる人を出して欲しいといった要望を出すと共に、この地が持つ価値を伝え、行政との連携を深めていきました。白駒池の木道は、ただ歩きやすいだけではなく『自然を守る』という大切な役割を果たしています。たとえば木は普通下に向かって根を張らしますが、この辺りは岩だらけで根を下に伸ばしても養分が取れないので、岩と岩の間の苔が作った腐葉土に根を張っています。そのため木の根が横に伸びているので、もし、木道がなければ根が登山者に踏まれて木はやがて枯れてしまいます。登山というのは山の中に入っていく行為ですから、自然に負荷をかけないようにすることを考えなければいけません。以前”ここに小屋がなければ、もっと自然が壊れなくていい”と言われたことがあります。でも、私たちは小屋番として山の中に入っているからこそ、自然を守り育て、いかに『負荷をかけずに共存していくか』ということを考え、行動しているのです」と山浦清さんは話してくれました。白駒池周辺は519種類の苔が生息する神秘的な苔の森が広がる場所であり、日本蘚苔類学会から『日本の貴重なコケの森』に選定されています。山浦さんをはじめとする周辺山小屋関係者のみなさんやボランティアとして登山道整備に携わってくれている方々、そして行政からの補助金などのサポートにより、この地の価値は守られ、その魅力は広く知られるようになりました。

八ヶ岳の未来を変えるため
みんなと、できること

八ヶ岳 登山道プロジェクト
2025

八ヶ岳の登山道整備は、登山者の安全と快適な登山環境を維持するために欠かせない活動です。広範囲に及ぶ登山道は老朽化や自然災害の影響を受けやすく、定期的な整備が必要とされています。
整備は、山小屋関係者や行政、ボランティアなどによって行われ、安全な登山環境の確保を目的としています。主な作業には、整地・盛土、ステップや案内板の更新、鎖場・橋梁の補修、倒木の撤去、下草狩り、駐車場やトイレの整備などがあり、多岐にわたります。
そのため、登山道整備の優先順位は関係者の協議により決定され、毎年実施されています。
この取り組みにより、八ヶ岳の自然環境を守りながら登山者の安全を確保し、未来へつなげていくことが期待されています。

日頃から登山道整備をしてくれている方々への感謝の気持ちと、山に対する想いの深まり。

2025年6月に実施された白駒池登山道整備活動には、八ヶ岳観光協会に加盟している周辺の山小屋関係者、八ヶ岳観光協会とパートナーシップ協定を結んでいるアウトドアメーカー「ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社」からボランティア社員12名、女優でモデルの一双麻希さんらが参加しました。当日は白駒池駐車場に集合し、八ヶ岳観光協会の山浦宣伝対策委員長による挨拶と作業の進行についての説明を受けた後、木道整備に使用する木材を運搬車で青苔荘前まで運びました。しかし、運搬車が使えるのはここまで。ここから先は強風と強い雨が降りしきる悪天候の中、人力での作業になり、参加者は雨で湿って余計に重くなった木材を肩に背負って現場へと運び、関係者の指導のもと木道の修理を行うなど、ハードな作業に熱心に取り組みました。

参加された方からは、
「私は普段から山を歩く中で『どのように整備が行われているのか』『作業の大変さはどんなものなのか』を知っておくべきだと考えていたので、今回参加できて非常に嬉しく感じています。お手伝いさせてもらった道を次に歩く時、少しでも私が整備に貢献できたことを実感できるのではないかと期待しています」(男性参加者)
「雨の中の作業は大変そうだと感じつつも、それ以上にワクワクする気持ちが強く、とても前向きな気持ちで参加することができました。整備作業は肉体的には大変な部分もありましたが、大きな『やりがい』が感じられ、とても貴重な体験になりました」(女性参加者)
「今回木道の整備に実際に携わったことで、登山道に木道が敷かれている意味や設置の大変さを初めて理解しました。日頃から登山道を整備してくださっている山小屋関係者の方々には本当に感謝しかありません」(男性参加者)
などの声が寄せられました。みなさんお疲れの中でも、その笑顔はとても晴れやかで、登山道整備を通してより深まった山への思いが感じられました。

整備された木道は豊かな苔の森を守り、登山者の安全な通行を支えます

山小屋として伝える『自然との共存』と、企業と共に進める『八ヶ岳を活用して未来につなぐ』取り組み

山浦清さんが作った木道も年月を経て補修が必要な箇所が増えていく中、古い板の張り替えを始めた青苔荘3代目主人・山浦雄大さん。
「最初はひとりで始めたんですが、やはりひとりだとどうしても1日にできる作業が限られてしまい、ボランティアの力をお借りするようになりました。ですが登山道整備は体力的な負担が大きく、一般の方にお願いするのは難しい部分があるため、山関連の企業様や山岳ガイドの方々など、ある程度体力のある方たちにボランティアをお願いしてきました。

今回ミレーさんにお声がけをしたところ、ぜひ参加したいとご快諾いただき、社員研修という名目で有志の方々が作業に当たってくれることになり、いつもより大きな規模で登山道整備をすることができました。父が木道整備を始めてから30年、試行錯誤の連続だったであろうと思います。ですが景観を損なわないように木を使ったことで、そこにまた新たな苔が生えてきている様子などを見ると、やはり白駒池にはこのやり方が合っていたのだろうと思います。
苔の研究に関わる学会の先生方からも「木道があるから、これだけの苔が残っている」と言っていただいています。僕は山小屋を経営する者として、ここに来てくださった人に、この自然がいかに貴重なものなのかを伝えつつ、自然との共存につながる活動をしていくことが重要だと考えています。

僕自身、父がやっていることを見て、聞いて、そして自分で実際に登山道整備をしたり、自然観察会を開催したりする中で、「ああ、そういうことなんだ」とわかってきました。僕はもともとそんなに山好きじゃないんですよ(笑)。子どもの頃から連れてこられてやることもなく、ただトンボを追いかけ回したり、花を見ていたり、そんなことしかやっていませんでした。だからある意味マイナスからのスタートなんですよね。
でも今は、白駒池周辺の自然を守り伝えていきたいですし、それに共感して苔や自然に興味を持ってくれる人にこの場所に来てほしいと思っています。白駒池から少し外れると整備が行き届かず荒れた登山道がたくさんあります。山小屋が主体となって行う登山道整備だけでは追いつかないというのも現実です。
今回のミレーさんのように、登山道整備と社員研修を結びつけるような取り組みが今後増えていってくれることに期待しています。八ヶ岳観光協会は八ヶ岳・蓼科山の山小屋が加盟しており、横のつながりもしっかりとしています。ですからこの組織や環境を利用して、登山道整備だけでなく『八ヶ岳でこんなことをやってみたい』という声が企業様側から上がってきてほしいと思っています。私たちもこのかけがえのない八ヶ岳の魅力と価値を未来につなげていくための活動を続けていこうと思っています」。

ボランティアの皆さんが真剣に登山道整備に取り組む姿が印象的でした